ニタリザメとは?特徴とオナガザメ科の関係
海のロマンを感じさせる存在、ニタリザメ。このサメは、ダイバーや生物ファンの間で“幻のサメ”とも呼ばれています。なぜこれほどまでに多くの人を魅了するのか。その理由のひとつは、ニタリザメが持つ特徴的な姿と、オナガザメ科としてのユニークな生態にあります。
ニタリザメの学名は「Alopias pelagicus(Nakamura, 1935)」で、英名はPelagic thresher shark。和名は単に「ニタリ」「ニタリザメ」とも呼ばれ、オナガザメ科の中でも最も小型の種です。この科には、ニタリ、マオナガ、ハチワレの3種が存在しています。そもそも「ニタリ」という名前は他のオナガザメとの体形の微妙な違いから“似たり”が語源となりました。細部を注意深く観察すれば、彼らの違いが見えてきます。
世界中にはニタリザメに関する20以上の別称が存在し、英名の「Pelagic thresher」も“遠洋に生息するオナガザメ”という意味。生息地によって異なる呼び方がされるこのサメは、世界のさまざまな文化や漁業にも関わり深いと言えるでしょう。オナガザメ科のユニークさは、その生態だけでなく、名前にも表れています。

尾鰭の役割とマオナガとの違い
尾鰭の長さに圧倒される人も多いニタリザメですが、その役割は極めて重要です。ニタリザメの最大の特徴である尾鰭(特に上葉)は、体長の半分以上を占めます。実際、成体では全長約4.3mのうち半分ほどが尾鰭なのです。色彩にも特徴があり、背中は濃い青または灰色、体側にはメタリックシルバーの輝きが走り、腹側は白。その白さが胸鰭の基部まで伸びない点が、マオナガとの大きな識別ポイントになります。
この尾鰭には、単に長いだけでなく特有の機能が詰まっています。例えば、尾鰭をしなやかに振るため付け根には深い溝が刻まれていて、脊椎も特異な構造をしています。ニタリザメはこの長い尾鰭を素早く振り上げ、小魚を気絶させるという独自の捕食スタイルを持つのです。
マオナガとの違いについてさらに記しておくと、マオナガは胸鰭の基部まで白帯が伸びること、全体的な体型や大きさでも差があります。具体的な比較ポイントとして次のような違いがあります。
- ニタリザメ:全体的に寸が伸びた体形、目が大きく、尾鰭付け根に溝。
- マオナガ:白帯が胸鰭基部まで伸びる、体型や目の比率が異なる。
このような外見・生態の違いを理解することで、現場での観察時にもとても役立ちます。
熱帯・亜熱帯海域における外洋性の生態
熱帯・亜熱帯海域の広大な外洋で暮らすニタリザメ。その不思議な生態に迫ることで、より一層興味が湧いてくるはずです。ニタリザメはインド洋や太平洋、大西洋、地中海まで実に広範な分布域を持っています。特に日本では本州以南の外洋で見られることが多く、時折沿岸部にも出没します。
彼らの主な活動域は水深0~152m以深と深く、外洋の表層を豪快に泳ぎ回ります。しかし、時としてサンゴ礁の周辺や、クリーニングステーションと呼ばれる“体のメンテナンスエリア”で姿を現します。ダイバーにとっては、まさに夢のような遭遇ポイントとなるのです。
熱帯や亜熱帯、温帯の特徴的な海域に生きることで、同じオナガザメ科でも多様な適応を見せています。その一例として、フィリピンのマラパスクア島周辺では世界有数の観察スポットとなっています。こうした環境要因も、ニタリザメのディープな魅力を一層引き出しているのです。

クリーニングステーションでの行動観察体験
クリーニングステーション。それはまるで“サメたちの癒しの場”とも呼べる場所です。私自身、ニタリザメを初めてクリーニングステーションで目撃したときの感動は今も忘れられません。その場所では、ニタリザメがゆったりとホバリングし、「ホンソメワケベラ」などの小魚たちによる体表のクリーニングを受けていました。まさに幻想的な光景です。
この種はフィリピン・マラパスクア島近海にあるクリーニングステーションで毎朝のように現れることで有名です。特に水深22~25mのポイントでは、早朝ダイブによって高確率で観察ができます。長い尾鰭をたゆたわせ、時折すっと泳ぎ去るその姿には、他のどのサメにもない優雅さと神秘性が漂います。
クリーニングステーションでのニタリザメは、群れではなく単独で現れることが多いです。それでも、その迫力や存在感に自然と心を奪われてしまうのです。希少なこの体験は、全世界のダイバーを惹きつけてやみません。

捕食行動と群れでの協力
ニタリザメの最大の特徴ともいえるのが、その独自の捕食行動です。外洋性捕食者として、主な獲物はイワシやサバ、イカ類といった群れをなす魚たち。このサメは特異な方法で狩りを行うことで知られます。準備、攻撃、回復、回収の4段階で獲物へアプローチするのです。
まず接近し、驚異的なスピードで体を反転させながら尾鰭をしならせて振り下ろします。この“鞭の一撃”で小魚を次々と気絶させ、平均3.5匹、場合によっては最大7匹もの魚を同時に捕まえられるのです。これはサメのなかでも極めて珍しい行動で、尾鰭が武器となる唯一のサメとも言われています。
興味深いのは、この時個体によっては周囲に他のニタリザメがいることもあり、お互いに同じエリアで餌を狙う場面が観察されます。とはいえ明確な群れ行動ではなく、個体ごとが独立して捕食する協調性です。尾鰭の構造には付け根の溝や特殊な脊椎など、捕食に特化した進化の痕跡が見られます。

絶滅危惧種の現状とワシントン条約の役割
ニタリザメは現在、絶滅危惧種(Endangered, EN)に指定されています。生息数は年々減少しており、主な要因は延縄や刺し網による混獲、さらには意図的な漁獲です。関連する漁法ではマグロやカジキを狙う際にも偶発的に掛かってしまうことが多く、それが個体数減少の大きな理由となっています。
2017年、ニタリザメを含むAlopias属全体がワシントン条約(CITES)附属書IIに掲載され、同年10月より国際取引に規制がかかりました。これはニタリザメの肉やヒレ、肝油、皮などの国際的流通を抑える意義ある一歩となりました。しかし、それでも依然としてスポーツフィッシングなどでのリリース後死亡例や、国際取引の抜け道が課題として残っています。
絶滅危惧種の意義を知ることは、私たち海好きにとっても大切なテーマです。保全の現場では“幻のサメ”とも形容されるこの生き物への関心がますます重要になっています。
水族館飼育から学ぶ環境保全意識
ニタリザメはその生態の特殊さから、水族館での長期飼育が極めて難しいサメです。過去に沖縄美ら海水族館や海遊館、葛西臨海水族園などで短期間の展示が試みられてきましたが、最長でも26日間程度という難しさです。外洋性のため水槽環境に適応しにくいことや、餌付けの難易度、ストレスへの弱さが影響しています。
この事実は、ニタリザメが本来の生息環境で守られるべき存在であることを私たちに教えてくれます。実際、水族館で観察する機会は非常に限られていて、野生で出会うことが彼らへの理解や保全につながるのです。人工的な環境での課題が浮き彫りになるほど、現実の海で彼らを守る活動への関心が高まります。
水族館展示の多くは教育的な意義も兼ねており、その意図を知ることで、私たちも普段の生活の中で海や生物多様性への意識が高まるでしょう。ニタリザメと人間社会、その関係性を考えること自体が、未来の海を守る第一歩になります。
まとめ:ニタリザメとサステナビリティへの思い
ニタリザメの奥深い生態と、その神秘的な姿。ダイバーでなくても、知れば知るほどその虜になる魅力に溢れています。しかし同時に、絶滅危惧種としての現実や環境問題にも目を向けることが大切です。人と自然の豊かな共生を目指すサステナビリティの時代、ニタリザメの“幻の長尾”を守りつつ、彼らを次世代にも語り継いでいきたいと感じます。同じ海を愛する者として、これからも彼らの生きる世界を一緒に支えていきませんか。
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