ニタリザメとは?オナガザメ科の特徴
ダイバーたちが「幻のサメ」と呼び、憧れてやまないニタリザメ。熱帯から温帯の外洋に広く生息し、美しい姿と独特の生態で注目を浴びるサメです。本章では、ニタリザメの基本情報とオナガザメ科の仲間たちについて丁寧に紹介します。
ニタリザメは学名「Alopias pelagicus」、英名では「Pelagic thresher shark」と呼ばれます。日本語の「ニタリ」は、同じオナガザメ科のマオナガに体形が似ていることに由来しています。分類上、ニタリザメはネズミザメ目・オナガザメ科・オナガザメ属に属します。オナガザメ科には、ニタリ・マオナガ・ハチワレの3種が含まれ、それぞれが独自の特徴を持っています。また、英名「Pelagic thresher」は、遠洋性のサメであることを示しています。
ニタリザメは世界中の熱帯から温帯の海域に分布し、日本では本州以南の外洋で見つかることが多いです。尾鰭の長さが際立っていて、全長のおよそ半分を占めるそのフォルムは、水中でひときわ美しく映えます。地元ごとに20種類以上もの別称が存在し、地域ごとの呼び名の多様さも興味深いポイントです。

ハチワレやマオナガとの違い
ニタリザメとよく混同されるのが、同じオナガザメ科に属するマオナガやハチワレです。ここでは、それぞれの外見的・生態的な違いについて整理します。
まずニタリザメは、オナガザメ科の中で最も小型であり、成熟個体でも全長2.5~3.0mほど。対してマオナガは最大6mを超え、明らかに大きさで差が出ます。ハチワレは頭部後方に深い溝があり、目が縦長でかなり大きいのが特徴です。ニタリザメの見分けポイントは「腹側の白色帯が胸鰭基部の上まで伸びない」ことや、目が大きく黒いこと、また胸鰭や各ヒレが丸くなっている点が挙げられます。
行動面でも違いが見られます。ニタリザメは外洋性で回遊が多く、浅い場所にも現れるためダイバーが比較的観察しやすい一方、マオナガやハチワレはより広い深海まで行動範囲としています。呼称の混同が多く、「オナガザメ」として一括りにされる事例も珍しくありません。地域によっては同じニタリザメが「マオナガ」とも呼ばれるため、識別には注意が必要です。
尾鰭攻撃の生態と驚き
ニタリザメならではの最大の特徴が、見事な尾鰭を使った独特の狩猟行動です。水中で繰り広げられる一瞬の攻撃は、ダイバーたちに大きな驚きと感動を与えます。
ニタリザメは主にイワシやサバなど、群れをなす小魚を好み、長い尾鰭をムチのようにしならせて一撃を繰り出します。この「尾鰭攻撃」が成功すると、平均3~4匹、多い時で7匹もの魚を一度に失神させることができます。その攻撃スタイルは、「準備→攻撃→回復→獲物回収」という4つの段階で構成されており、サメ類でもこの種だけが持つユニークな狩猟法です。映像で観察すると、高速で小魚の群れに近づき、突然体を反転して大きく尾を振り下ろすその様子は、まるでアクション映画のワンシーンのよう。
尾鰭のしなりを生かして水中で獲物に強烈に打撃を与え、背骨を折る・浮き袋を破裂させる等のダメージを与えることが研究でも確認されています。狩猟行動は「オーバーヘッド型」「サイドウェイ型」に分かれ、観察地では前者が一般的です。この生態は世界中のサメの中でも極めて特異なものであり、ニタリザメの進化や適応力を示す好例と言えるでしょう。

私の体験談:マラパスクア島で出会ったニタリザメ
私は以前、フィリピン・マラパスクア島で念願のニタリザメに遭遇することができました。この島は、世界でも数少ない「高確率でニタリザメに会える観察地」として多くのダイバーから人気を集めています。
ダイビングの当日、早朝まだ暗い時間からエントリー。澄んだ青い海を進むと、水深30m付近のクリーニングステーションに次々と現れるニタリザメの美しいシルエットが浮かび上がりました。全長4m近い個体が悠然と泳ぎ、巨大な尾鰭を優雅に振る姿にただただ圧倒されました。他のダイバーも夢中で息を呑んで見守り、思わず「神の使者」と呼ばれている理由に納得してしまったほどです。
一年を通して1ダイブにつき1~4個体、多いときは最大10個体に出会えることもあるこの島では、ダイバー同士が感動を分かち合う場面が何度も見受けられます。ダイビング後には地元ガイドと盛り上がり、写真や動画を見返しながら、その神秘的な体験を何度も語り合いました。夢にまで見た出会いは、今も鮮やかな記憶として心に残っています。

クリーニングステーションでの感動
このセクションでは、私がマラパスクア島で体験したクリーニングステーションにおけるニタリザメとの出会いについて詳述します。早朝の静寂な海中には、大小さまざまな魚たちが集まる一角があります。それがクリーニングステーションです。
ここでニタリザメは、クリーナーフィッシュに体表の寄生虫を除去してもらいながら、堂々とその場に滞在します。ダイバーから見ても、ストレスなく自然体で泳ぎ続ける姿が印象的。ときには尾鰭をしならせて優雅に体をくねらせる動きも観察でき、普段見ることのできない落ち着いた一面を感じました。ダイブ中は水中ライトやフラッシュの使用が厳しく制限されており、静かな環境を守る取り組みが徹底されています。
観察ルールを全員が守るからこそ、ニタリザメも警戒することなく近づいてくれるのでしょう。神秘的なシーンを目の当たりにしたとき、サメへの畏敬の念とともに、人と環境の共存の大切さを実感せずにはいられませんでした。
ニタリザメの絶滅危惧種指定とワシントン条約
ニタリザメは、その美しさとは裏腹に、絶滅危惧種として国際的な保護の対象となっています。この章では、現在の保全状況とワシントン条約(CITES)との関わりを解説します。
国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは、ニタリザメは「EN(絶滅危惧種)」に指定されており、生息数の減少が深刻な問題となっています。減少の主な原因は、マグロやカジキ漁での混獲、本種を狙った漁業、さらにスポーツフィッシングによるリリース後の死亡例などです。2017年にはニタリザメを含むAlopias属がワシントン条約附属書IIに掲載され、国際的な取引が規制されることとなりました。
CITESにより、サメの保全活動は急速に強化されています。ただし、現場での管理や監視体制にはまだ課題も多く、日本を含む各国の具体的な行動が求められています。絶滅の危機に瀕するこの「幻のサメ」を守るため、我々一人ひとりの理解と行動が求められる時代となっています。
混獲問題と水族館飼育の現実
ニタリザメの未来を考えるうえで避けて通れないのが、混獲や水族館での飼育といった人間活動との関係性です。ここでは、その現実と課題について解説します。
外洋性で広い領域を移動するニタリザメは、マグロやカジキなどを狙った延縄漁等で、意図せず網にかかる混獲が多発しています。混獲が原因で個体数が減少する一方、肉やヒレ、肝油、皮が利用され、市場に流通することも少なくありません。また、水族館での長期飼育が極めて難しいことで知られており、成功例はごくわずかにとどまります。沖縄美ら海水族館や葛西臨海水族園などで展示された記録はありますが、最長でも1ヶ月程度しか生存させられていません。
このような現実を背景に、ニタリザメの保全と持続可能な利用をいかに両立させるかが重要なテーマとなっています。ダイバーや研究者、一般市民が連携し、捕獲や展示の在り方を改めて見つめ直す必要があるでしょう。
ニタリザメ保護とサステナビリティに向けて私たちができること
ニタリザメを未来に残すためには、サステナビリティの視点から個人レベルで取り組めるアクションが数多くあります。ここでは保全へのステップをわかりやすく紹介します。
まず最も大切なのは、正しい知識の習得です。インターネットや専門書、信頼できる情報源を活用し、サメの生態や現状を学びましょう。加えて、海洋環境やサメ保護のためのプロジェクトへ参加することで、実際の保全活動に貢献できます。ツアー参加時は現地のルールやガイドの指示を厳守し、サメや自然環境への負荷を最小限に抑える意識を持ちましょう。
次に、日常の中でできることは以下の通りです。
- 環境に配慮した消費行動を心がける
- サメ関連商品の購入前にその背景を確認する
- サステナブルな漁業・観光ツアーを選択する
地道な努力が大きな変化につながります。ニタリザメを含む海の生き物たちへの理解と共感を広め、未来への責任ある行動を積み重ねたいものです。

市民・ダイバー視点のアクション例
市民やダイバーが実践できるアクションには、様々なものがあります。自分たちにできることを具体的に考えてみましょう。
まず、ダイバーは観察ルールの徹底が重要です。水中ライトやフラッシュの使用制限、ロープより先に進まないなどのガイドラインを遵守し、サメへのストレスや環境負荷を減らします。さらに、SNSやイベントを通してニタリザメの魅力と保護の大切さを発信し、多くの人と情報を共有しましょう。
市民も、サステナブルな水産物の選択や、海洋保護キャンペーンへの参加といった日常の意識改革から取り組めます。教育現場や地域活動でサメをテーマにしたワークショップを開くことで、若い世代にも関心を広げることができるでしょう。専門的な知見が必要な場面については、専門家への相談や現地ガイドに意見を仰ぐことも有効です。
まとめ
ニタリザメは、唯一無二の尾鰭攻撃や優雅な姿で多くの人を魅了しつつも、絶滅の危機に直面しています。外洋で繰り広げられるその生態や、ダイバーとして体験した感動、そして保護活動の重要性――すべてが今、次世代へつなぐ価値あるものです。私たち一人ひとりの小さな行動や正しい知識の積み重ねが、サステナブルな未来に確実につながります。
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