ニタリザメとは?特徴とオナガザメ科の仲間たち
皆さんは「ニタリザメ」というサメをご存知でしょうか。大学生や社会人になってダイビングや海の生物に興味を持った方には、少し耳なじみが薄い存在かもしれません。しかし、ニタリザメは“幻のサメ”と称され、ファンの間では熱狂的な人気を誇っています。オナガザメ科というグループに属し、その生態や特徴は非常にユニークで、知れば知るほど惹かれてしまう生き物です。
ニタリザメは学名Alopias pelagicus、日本ではニタリやニタリザメという和名で呼ばれています。同じオナガザメ科にはマオナガやハチワレも含まれます。最大の特徴は、全長の半分ほどもある長い尾鰭(おびれ)。成魚になると4mを超える個体もおり、銀色に青みがかった美しい体色と相まって、海中で見ると圧倒される姿です。さらに「ニタリ」という名前自体が、マオナガとの微妙な形態差から「似たり」と名付けられたというユニークな逸話もあります。
胸鰭が丸く大きく、目はくりっとした黒目、小さめの口、全体的にほっそり伸びた体型が特徴です。オナガザメ科3種を比較すると、最大で6mを超えるマオナガに対して、ニタリは最大3~4m程度。ハチワレは目立つ頭部の溝と、縦長の大きな目が見分けポイントとなります。ちなみにニタリザメには地域によって20種以上もの呼び名が伝わっていることも面白さの一つです。
ニタリザメ Wiki
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%83%AA
長い尾鰭が生む独特な捕食行動
ニタリザメの最大の魅力は、何といっても“尾鰭を使った捕食”です。他のサメや魚とは異なり、ニタリザメはその長い尾鰭をしなやかに振り上げ、小魚の群れを一撃で叩きます。その技はサメ類の中で唯一とも言えるほど特異で、ダイバーからも「一度は見てみたい」と憧れの対象です。
普通のサメは鋭い歯で獲物を直接狙いますが、ニタリザメはイワシや小型のサバ、イカなど外洋性の小魚を主食としており、“準備→攻撃→回復→獲物の回収”というサイクルを繰り返します。捕食時には胸鰭を折りたたみ、体を急激にしならせながら頭上を越えるように尾を振る姿が見られます。実際の攻撃スタイルは「上から叩く」タイプと「横から叩く」タイプに分かれ、一撃で平均3〜4匹、時には7匹以上の魚を気絶させてしまうほど強烈です。
この動きはサメ類では他に例がなく、尾鰭の根元の独特な溝や、屈曲に耐える脊椎の構造もこの行動のための特化です。捕食に成功すると、失神した魚の背骨が折れたり、浮き袋が破裂していることも。海洋生態系におけるニタリザメの役割は明確で、エネルギー効率を重視した捕食者として注目されています。
ニタリザメの行動は、シャチやイルカが尾鰭で魚を打って捕らえる行為と似ていますが、サメでこの技を披露するのはニタリザメだけ。夜行性・昼行性問わず活動し、優雅に泳ぐその姿は海中でひときわ神秘的に映ります。
ニタリザメ: https://www.zukan-bouz.com/syu/%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%83%AA
マラパスクア島でのダイビング体験記
ニタリザメが「幻のサメ」と呼ばれる理由の一つは、その目撃難易度の高さです。世界でも安定して目撃できる場所は極めて限られており、ダイビング好きにとっては人生で一度は訪れたい“聖地”が、フィリピン・マラパスクア島となります。私が初めてマラパスクア島を訪れたとき、現地の早朝ダイビングに参加しました。出発時はまだ暗く静まり返った海。わくわくと不安が入り混じる中、22m〜25mほどの「クリーニングステーション」まで潜降しました。
水中に入ると、砂地の上を悠然と泳ぐ影が。ライトもフラッシュも使用禁止で静かに待つと、突然あの長い尾鰭が現れ、群れに向かって大きくしなるのを目の当たりにしました。1ダイブで最大3個体、運が良ければ10匹近く見られる日があるそうですが、それでも毎回会えるわけではなく“幻”の理由を実感しました。
観察ルールは厳しく、接近距離や静寂の維持、フラッシュ禁止が徹底されていますが、その分、真近で感じる圧倒的な生命感は一生の思い出です。ダイバーガイドからは「神の使者」や「最後の大物」といった名で親しまれている理由も納得できました。こうした体験はニタリザメの“保護”と“持続的な観光”の両立を意識するきっかけにもなります。
マラパスクア島紹介
https://www.divenavi.com/philippines/pelagic_thresher
マラパスクア島ダイビングツアー
絶滅危惧種としてのニタリザメの現状
近年、ニタリザメは絶滅危惧種(EN)としてIUCNレッドリストにも掲載され、海の環境問題の側面から大きな注目を集めるようになりました。外洋の広範囲に分布する一方で、生息数は年々減少傾向を示しています。その大きな要因が、延縄や刺し網による混獲や肉・鰭・肝油・皮の利用、さらにはスポーツフィッシングなどの人為的要因です。特にマグロ・カジキ延縄漁では非意図的な混獲が多発しており、水産資源管理の課題として世界的に議論されています。
また、リリース後に生き延びられない個体が多いことも問題です。かつては日本近海やフィリピンでも安定的に見られたニタリザメですが、観察例の減少が報告される地域も現れています。こうした現状は、私たち人間の活動がもたらす海洋生物多様性への影響を痛感させます。
ダイビングや観光利用による“経済的価値”と“生物の持続可能な存続”は時に相反する問題ですが、環境保全とバランスをとる仕組みづくりが急務だと実感します。「絶滅危惧種」というレッテルに甘んじることなく、ニタリザメの現状を広く理解し共感してもらうことが、未来の保全に繋がるでしょう。
絶滅危惧種のサメ: https://sharkspedia.org/iucn-red-list-shark
IUCNレッドリストとワシントン条約での保護
ニタリザメの保護は、国際レベルでの規制が進められています。IUCNレッドリストにおいては絶滅危惧種(EN)に指定されており、その存続が脅かされています。さらに、2017年にはオナガザメ属(Alopias属)がワシントン条約附属書IIに掲載され、国際間の取引に規制がかかりました。これによりニタリザメやその鰭・肉の取引について、輸出入に厳しい手続きや一定の制限が設けられています。
このような規制の導入は、過剰漁獲や違法取引を防ぐために非常に重要です。一方で現場の混獲や違法漁を防ぐには、現地の関係者への教育や啓蒙活動も欠かせません。多国間の協力や、現地ガイドとダイバーをつなぐグローバルなネットワークの構築が、今後のサステナビリティ推進の鍵となるでしょう。
また、水族館での長期的な飼育は極めて難しく、国内でも数週間の短期展示に限られています。自然下でしか見ることができない生き物の価値と、科学的研究・啓蒙活動のバランスを考えることが必須です。こうした国際的・地域的な施策が着実に進むことで、将来的にニタリザメが再び豊かな個体数を維持できる環境がつくられることを願います。
ワシントン条約に掲載されたサメ: https://sharkspedia.org/cites-shark
混獲や水族館飼育が及ぼす影響
ニタリザメはその貴重性や生態のユニークさゆえ、水族館での展示もたびたび試みられてきました。しかし、残念ながら飼育は長期間の成功例がほとんどありません。これは外洋型のサメ特有のデリケートな体質や、環境変化への適応力の低さに由来しています。過去には日本の沖縄美ら海水族館や海遊館、葛西臨海水族園で展示され話題になりましたが、最長でも26日ほどの短期結果にとどまっています。
混獲については、漁業活動による“偶発的な死亡事故”が後を絶ちません。マグロやカジキ漁の副産物としてニタリザメが捕獲されると、本来持つ役割を全うできなくなり、海洋生態系のバランスへの影響が懸念されています。さらに、一度人の手にかかって逃がされた個体の多くがその後生き残れないという現実も、ファンや研究者にとって大きな課題です。
ニタリザメの保護と生態研究には、プロジェクト型の保全活動や最新の研究成果の積極発信が欠かせません。NHK「ワイルドライフ」などのメディア特集や、学術的な記録は、社会への興味喚起と愛護意識の向上に一役買っています。
水族館一覧: https://sharkspedia.org/encyclopedia/aquarium-list
人との共存に必要なサステナビリティ
ニタリザメという絶滅危惧種を将来に残すためには、人間活動と自然のバランスをいかに保つかが問われています。ダイビング観光との適切な距離感や、漁業サイドでの自主的な混獲防止策、国際間のルールづくりなど、考慮すべきポイントは年々増しています。何よりも「幻のサメ」と親しまれるこの生物が生き続けられる環境を守るためには、個々人の意識改革と正しい知識の共有が求められます。
例えば、以下のようなポイントが考えられます。
- 観察時のルール遵守やダイビングインパクトの最小化
- 現地漁業関係者へのサメに関する啓発活動
- サステナブル・シーフードの選択や消費行動の見直し
こうした小さな努力の積み重ねが、ニタリザメのみならず広く海洋の生態系保護につながっていきます。環境保全活動や関連する研究情報に積極的に目を向け、自分たちにできる身近なアクションから始めることが重要です。これからも、一人ひとりがファンとしてこのサメを守る担い手になれるよう、変革を続けていきましょう。
サメ保全: https://sharkspedia.org/shark-activism
まとめ
ニタリザメはその特異な姿や生態から、ファンを引き寄せ魅了してやまない存在です。同時に、絶滅危惧種として存続が危ぶまれる現状は、現代社会が抱える環境課題の縮図でもあります。ダイビングや観察ツアーの思い出、保全活動の重要性など、多面的にニタリザメの魅力・価値に触れることで、より多くの人がこの“幻のサメ”のリアルを知り、未来に繋ぐアクションへと踏み出せるのではないでしょうか。
ニタリザメの島: https://divepsc.com/%E3%83%8B%E3%82%BF%E3%83%AA%E3%82%B6%E3%83%A1%E3%81%AE%E5%B3%B6
マラパスクア ダイビング: https://all-blue-cebu.com/archives/8421
ニタリザメ ダイビングエリア: https://diver-online.com/archives/go_to_diving/14056
ニタリザメに合える島: https://lightnessist.com/cebu-malapascua-scuba
幻のサメ: https://presswalker.jp/press/39307
ニタリはどんなサメ?: https://sharkspedia.org/pelagic-thresher
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