ニタリザメとは?特徴とオナガザメ科の分類
神秘的な海の生き物、ニタリザメについて知っていますか?一見おとなしく見えるこのサメは、独特な姿と生態を持ち、海洋のサステナビリティを考える上でも注目されています。私自身が現地で目撃したニタリザメの姿は、まさに「幻のサメ」と呼ぶにふさわしいものでした。
ニタリザメは学名をAlopias pelagicusといい、英名ではPelagic thresher sharkと呼ばれます。オナガザメ科に属し、その中でも最も小型の種で、最大で全長4.3メートルほどに成長します。「ニタリ」という和名は、近縁種のマオナガに姿がよく似ていることに由来します。オナガザメ科にはニタリのほか、マオナガ、ハチワレの3種があり、それぞれ形態や生態に微妙な違いが見られます。
姿を見分けるポイントは、体の半分以上を占めるほど長い尾鰭。体カラーはメタリックシルバーを基調に、背は濃い青~灰色、腹部は白色で、特に腹側の白色帯が胸鰭基部の上まで伸びない点がニタリザメの識別の鍵となります。さらに、目が大きく口は小さいといった特徴があり、他種と区別する際にも大切なポイントです。
オナガザメ科内でも名称が混同されやすく、日本国内では特にニタリとマオナガの区別が地域や漁業現場でもあいまいになっています。ニタリザメの地域的別称はなんと22以上もあり、呼び名のバリエーションからも長い歴史と多様な人々との関わりを感じられます。

尾鰭捕食行動とユニークな生態
海の食物連鎖の中で、ニタリザメは独特な捕食行動を持っています。その最大の特徴は、全長の半分を超える長い尾鰭を武器として用いる捕食スタイルです。オナガザメ科の中でも、獲物を尾鰭で叩いて気絶させる技はニタリザメだけのもの。まさに、進化が生み出した海の奇跡を感じます。
尾鰭を使った華麗なハンティング
私がフィリピンでダイビング中に観察したニタリザメの狩りは、まるで舞い踊るようでした。獲物の群れに高速でアプローチし、身体を急激にひねって長い尾で小魚を叩きます。このアクション時、オーバーヘッド型とサイドウェイ型の2パターンが観察されています。研究によれば、1回の攻撃で平均3~4匹、調子が良いと最大7匹もの小魚を気絶させて捕らえることもあります。叩かれた獲物は背骨が折れたり浮き袋が破裂することもあり、捕食成功率は約3分の1。サメ類の中でも、これほど鮮烈なハンティングスタイルは他にありません。
小魚だけでなく、イカ類も捕食する一方で、ときおりクリーニングステーションに立ち寄り、体表に付いた寄生虫を除去してもらう習性も持ちます。昼夜を問わず活動し、日中も夜間も獲物を追って外洋を泳ぐアクティブさも、他のサメとの違いとして知っておきたいポイントです。
ニタリザメとマラパスクア島での出会い
世界中の海を舞台に生きるニタリザメですが、中でもフィリピン・マラパスクア島は「ニタリザメの聖地」として有名です。初めてこの地を訪れたダイバーの私が目にしたのは、想像以上に神秘的な光景でした。
ダイバーの憧れ、マラパスクア島のクリーニングステーション
マラパスクア島周辺の外洋、特にモナドショールと呼ばれるスポットでは、22~25メートルの深度にクリーニングステーションが存在しています。ここにニタリザメが定期的に現れ、小魚によるクリーニングをじっと受けています。その姿は「海の王者もこうしてメンテナンスを受けているのか」と驚かされるものです。
1度のダイブで1~4個体、多い時には10匹近くのニタリザメに遭遇できることもあり、世界中のダイバーがこの島を目指します。まさに憧れの地ですが、現地では自然環境とサメの行動を守るため、ダイビングのマナーやロープ先への立入禁止、強いライトやフラッシュの使用禁止など厳格なルールが存在します。私も現地ガイドの指導のもと、緊張感を持ちながらサメたちを見守りました。
このようなマラパスクア島での出会いは、海洋保全の意識を高める貴重な体験となりました。ニタリザメだけでなく、多様な生き物たちの「共存」の現場を実感した瞬間でした。

ニタリザメの繁殖様式とクリーニングステーション
多くの謎に包まれたニタリザメの生態。その中でも、繁殖様式はたいへん興味深いテーマです。このサメは卵胎生で、卵胎生とは母体内で卵を孵し、ある程度育った状態で仔を生み出す繁殖方法を意味します。
卵食型の興味深い繁殖とクリーニング習性
ニタリザメは胎仔が最初に卵黄で成長し、その後未受精卵を捕食する「卵食型」の繁殖様式を持っています。両方の子宮にそれぞれ1尾ずつ仔を宿し、通常は2尾が誕生します。出産直後の仔でもすでに全長1.3~1.6メートルとかなり大きいことが特徴。「自然界において弱肉強食の世界で生き抜くための知恵」だと感じさせられます。
妊娠期間は正確にはわかっていませんが、12ヶ月未満と考えられ、毎年出産している可能性もあると言われています。また、クリーニングステーションへの定期的な訪問も、体表の健康維持や繁殖活動のために重要な役割を果たしています。特に外洋で生きるニタリザメにとって、クリーニングフィッシュとの共生関係はサステナビリティの観点からも示唆深いものです。

水族館飼育の現状と課題
ニタリザメの雄大な姿を身近に見たいと思う人は多いですが、実は水族館での飼育は非常に難しいことで知られています。私自身も長年サメ好きとして様々な水族館を巡っていますが、ニタリザメを生きたまま展示している現場はごくわずかです。
なぜニタリザメは長期間飼育できない?
国内外の水族館では、沖縄美ら海水族館や海遊館などでニタリザメ飼育の記録がありますが、いずれも飼育期間は非常に短く、最長でも26日程度でした。主な理由は、外洋を回遊する生活環境の再現が難しく、エサの確保や泳ぐスペースの確保ができないことにあります。また、目に瞬膜がなく、尾鰭の付け根に発達した溝があるなど、体の構造も極端な屈曲や高速遊泳向きであるため、限られた水槽では本来の健康状態を維持しにくいのです。
近年ではビデオ撮影やクリーニング行動の科学的分析が進みつつあり、自然界との違いを理解した上で、より動物福祉にも配慮した展示方法が求められています。今後も野生個体と水族館飼育との両立を考えるため、現地の研究や情報発信に注目していきたいです。

絶滅危惧種としてのニタリザメと混獲の実態
ニタリザメは今、絶滅の危機に直面しています。IUCNレッドリストで絶滅危惧種(EN)に指定され、世界の海からその姿が消えつつある現状を、私たちはしっかりと受け止めなければいけません。主要な要因はマグロ漁の延縄や刺し網による「混獲」です。
ニタリザメは本来、積極的に人を襲うことはなく穏やかな性格ですが、魚肉・ヒレ・肝油などの利用や、スポーツフィッシングの対象となっています。さらには、一度漁網にかかった後リリースされても、高確率で死亡する傾向が最新の研究で明らかになりました。この事実は、漁法や消費行動の持続可能性を再考しなければならない重要な課題です。
ダイビングツーリズムの発展で「幻のサメ」と呼ばれる存在が注目されていますが、自然界では確実にその数が減少しています。海の生態系、ひいてはサステナビリティの実現のためにも、今こそ一人ひとりが興味を持ち続け、行動を起こす時だと強く感じています。
IUCNレッドリストとワシントン条約による保護
絶滅危惧種指定を受けたニタリザメは、国際的な枠組みによる保護のもとにあります。2017年にはワシントン条約(CITES)附属書IIにも掲載され、商取引や国際間の流通規制が強化されました。この動きが保全にどう貢献しているのか、考える必要があります。
IUCNレッドリストは、現在の生息数減少や混獲の深刻さを受けて、ニタリザメの保全を求める国際基準となっています。さらに、ワシントン条約により「国際取引」の規制が始まり、監視や取り締まりの枠組みが動き出しています。
こうした法的保護体制が有効に機能するためには、各国の協力や市民レベルでの理解・啓発活動が欠かせません。現地の研究プロジェクトやダイビングコミュニティによる情報発信もまた、未来のニタリザメを守るための大切な一歩となるでしょう。
体験談:現地で感じたサステナビリティの重要性
私がマラパスクア島でニタリザメに出会った経験は、ただの「観光」以上の意味を持ちました。現地ガイドや研究者たちは、サメ保全の難しさと希望を熱く語ってくれます。「その1匹の命」へのまなざしが、自然へのリスペクトにつながりました。
実際にダイビングの現場では、
- 水中ライトやフラッシュの使用が厳しく禁止
- 観察エリアのロープから先には決して入らない
- 勝手な接近や追跡は絶対にしない
といった厳格なマナーを全員が守っています。こうしたルールの背景には、「人間本位」ではなく「サメ本位」のサステナブルな観察が不可欠、という現地コミュニティの確固たる想いが込められています。
ダイバーのひとりとして、そして一人の消費者として、サメの現状を正しく学び発信する責任があると痛感しています。自然と共生する社会のため、自分にできることをこれからも考え続けたいです。
まとめ
ニタリザメの生態は、華麗な尾鰭捕食行動や独自の繁殖様式、クリーニングステーションでの共生など唯一無二の魅力にあふれています。私自身が現地で体験し、学んだことは「知ること」「伝えること」そして小さな行動を起こすことの大切さです。海洋生物のサステナビリティ実現のためにも、ニタリザメをはじめとする絶滅危惧種の現状に関心を持ち続けましょう。将来の世代へ、この美しいサメの物語と海の豊かさを受け継いでいくために——。
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